ヘルパーステーションけろけろ 

身体障害2級のだんなさんと要介護3の姑さんと4人の子供たちと一緒に、大阪から宮崎まで引っ越ししてきました。家庭と介護と仕事など、様々な生活の記録です。仕事で訪問介護員をしています。

わたしの手を、どうぞお使いください

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大阪で3つの事業所で仕事させていただきましたが、どの事業所でもたくさんの利用者さんたちとの出会いがありました。

介護職の方だけではないと思いますが、その瞬間瞬間が目に焼き付いて、忘れられない方というのも必ずあります。

 

そのお部屋は、マンションの一室で、決して広くはないワンルームに、大きな介護用ベッドがひとつ、そしてその隣には普通のベッドがもうひとつ。

 

玄関からすぐの台所には、小さなガスコンロがひとつ。

 

そちらでのケア(サービス)は、60分でしたが、お食事を用意する、というものでした。

 

もともとは羽振りのよかった旦那様が体調を壊されて、介護生活を余儀なくされておられました。契約上は、その方向けのお食事を用意することになっていました。

 

ただ、いつもの訪問介護の調理とは大きく違うことがありました。

 

ご主人様の介護ベッドの横には、ご自身の余命を知って退院されてきた奥様がおられました。

 

奥様のご希望は、最後までご主人様にお食事を作って差し上げること。

 

けれども、もう立ち歩く事はほとんど困難になってきておられました。

 

入室したらまず、ご主人様と奥様のベッドサイドにうかがい、ご挨拶をしますが、お返事があることは滅多にありませんでした。

 

奥様がかつて用意されていた冷蔵庫内の調味料や、様々なもの、また他のヘルパーさんが買い出ししてきた野菜などの食材を使って、1度のケアでは、時間内に3品作る事になっていました。

 

ご主人様の疾患を考えて、味付けや嚥下力も考えて…

冷蔵庫の中をさっと見ては、作れるものを考え、ひとつだけのコンロとレンジでうまくまわして時間内に調理をして、片付けもすること…

内容そのものは、よくある調理のケースでしたが、

 

大切だったのは、

 

奥様が、私の手を、自分の手として使って下さっている、ということ。

 

本当は、奥様がしてさしあげたかった料理、薄味にしてほしいというご希望、野菜と肉をこれくらいは使ってほしいというご希望、彩り、味付け。

 

最初はどうしていいのか、考えてもなかなか段取りもうまくなくて、10分くらいオーバーしてしまったり…

 

でも、だんだんと、だんだんと、心が落ち着いてきて、

 

私の手は、いま、あちらで休んでおられる奥様の手なのだ。

 

ご自分の最後の時間を、ご主人に何か作って差し上げたいという希望を持って退院されてきた、奥様の手なのだ。

 

このようなものをお作りしましょうか、と問うても、奥様はもうあまりお返事がないことが多かったけれど、

 

本当にたまに、炊飯器のスイッチを入れるためだけに起きてこられることもあり、

 

言葉はほとんどなくても、

 

静かな静かな部屋で、

 

並んでいるふたつのベッドが寄り添っていました。

 

私が調理する音だけが響く部屋で。

 

調理が終わって、盛りつけして食卓に並べてから、

 

奥様のベッドサイドに行って

 

「奥様、お食事ができました」とお伝えします。

 

奥様が起きておられたら、奥様がご主人様にお食事ができましたよと伝えられます。

 

お食事のときだけなんとか起きてこられるご主人様、

そしてそれをベッドからご覧になる奥様。

 

訪問介護をして、あんなに、自分の手を、この方が使ってくださっているのだ、と思えた事はありませんでした。

 

わたしの手を、どうぞあなたの手としてお使いください。

 

いまでも、あの静かな台所を思い出すたびに、

 

人生の最後の望みが、ご主人様に何か作って食べてもらいたいと願われた奥様のことを思い出します。

 

そして、その方の手となれたことを、心から嬉しく思っています。

 

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